ホームズ研究のテーマ

はるかむかしからホームズ研究がおこなわれており、ホームズファンはもちろん、それぞれの時代に活躍した作家、科学研究者までもが趣味として取り組んできた。そんなところへ、ただのいちファンが入っていけるだろうか。

 

こうした研究の世界へ入っていくとするなら、自分なりのテーマを見つける必要がある。そこで考えたのは、このサイトでもたびたび言及しているメモ術やノート術に関することだ。でも調べてみると非常に少ない。サイト上には「ホームズのメモに関する記載は非常に少ない」などという、そんなコメントが検索するとすぐにヒットする。

 

そこでテーマを「手帳、メモ、ノート、論文」に範囲を広げ、ホームズがどのように取り組んでいたのかを調べてみた。なお、ホームズの正典は新潮文庫で平成24年前後に発刊されたシリーズだ。現代にマッチするよう、翻訳や用語も見直して改定されているが、そこからの変更はないと思う。したがって、セリフのあとにつけたページ数も違わないはずだ。

 

ホームズの記録、論文展開

シャーロック・ホームズの冒険

  • ボヘミアの醜聞
    • 独りベーカー街の古巣にふみとどまって古本の中に埋まり(略)(P.8)
    • 「ワトスン君、すまないが、ちょっと索引を見てくれないか」ホームズは眼を閉じたままでささやいた。
       彼は多年にわたって、あらゆる人物に関する記載を、要点だけ書きとめて整理していたので、いつどんな問題どんな人物をもちだされても、即座にそれに関する知識を得らなれないということは、ひとつとしてなかった。(P.21)
  • 赤髪組合
    • 私は刺青の構図に関しては、すこしばかり研究したこともありますし、その方面の文献に多少の寄与もしているものです。(P.61)
    • それからワトスン君は何よりも先にその新聞の名前や、日付を控えておいておいてくれたまえ。(P.63)
    • 私はよく知っているが、だから、彼が幾日も幾日も、わき目には怠惰そうに肘掛椅子にへばりついて、即興詩や古版の書物に埋もれているときほど、しんじつ恐るべきはないのだ。(P.87)
  • 花婿失踪事件
    • 僕の索引をくってみたまえ、1887年にアンドーヴァーの町で同じような事件があったし、オランダのハーグでは去年も似たようなことがあった。(P.123)
    • いったい私は、タイプライターと犯罪の関係について、小論文をもう一つ書こうと思っているのですが、これはかねてからすこしばかり研究している題目なのです。(P.132)
  • ボスコム谷の惨劇
    • 彼はその新聞を読みちらし、ときどきノートをとったり、黙想にふけったりしていたが、レディングをすぎたころ、とつぜん多くの新聞をかき集めてクルクル大きな束にまるめ、網棚のうえに放りあげてしまった。(P.142)
    • このタバコの灰の問題に関しては、君も知っているとおり少々研究もしたし、刻みタバコ、葉巻、紙巻など百四十種の灰を調べて、小論文を書いたこともある。(P.170)
  • オレンジの種五つ
    • シャーロック・ホームズは暖炉の片がわに陣どって、むっつりと、例の犯罪記録に索引をつけているし、私は反対がわでクラーク・ラッセルの海洋小説に夢中になっていたが、戸外に荒れ狂う嵐が本の中に溶け込んで、雨のしぶきがひろがって、波の飛沫のようにさえ思われるのだった。(P.192)
    • ちょっとその手近の棚から、アメリカ百科辞典のKの部をとってくれたまえ。(P.214)
  • 唇の捩じれた男 (なし)
  • 青いガーネット (なし)
  • まだらの紐
    • この8年のあいだに、シャーロック・ホームズの探偵ぶりを調べては控えておいた70余件におよぶ私のノートをくってみると、そのなかには多くの悲劇もあり、喜劇もいくらかはあり、単に奇異なだけのものもたくさんあって、一つとして平凡なものはない。(P.316)
    • ホームズは自分の机へ身体をねじ向けて、鍵を使って引き出しから小さな事件録をとりだした。(P.321)
  • 花嫁失踪事件
    • 僕は類似の記録をいくつも持っているんだ。(P.388)
  • 椈屋敷
    • うれしいことに君がこの真理をよく理解しているのは、書きとめてくれた記録をみればよくわかる。(P.409)

シャーロック・ホームズの帰還

  • 空家の冒険
    • ちょっとその本だなから、僕編集の伝記便覧をとってくれたまえ。(P.41)
    • 余白にホームズのきちょうめんな字で「ロンドン第二の危険人物なり」と書きこんである。(P.42)
  • 踊る人形
    • 私は暗号文の形式には慣れているし、それについては小論文の著述もありますが、その本には百六十種暗号暗号記法を分析してあります。(P.81)
  • 美しき自転車乗り(なし)
  • プライオリ学校
    • 彼は手帳を出して、何やら一つ二つメモを書きつけて、きびしくいった。(P.145)
    • 地図をみてみたまえ。この黒い四角なのがプライオリ学校だ。ピンを立てておこう。(P.156)
  • 黒ピーター(なし)
  • 犯人は二人(なし)
  • 六つのナポレオン
    • ホームズはハーディングの話のあいだに、何度か手帳へかきとめた。しらべが順調に展開してゆくとみえて、彼はきわめて満足そうに見うけられた。(P.295)
  • 金縁の鼻眼鏡(なし)
  • アベ農園
    • 書くよ。かならず書く。いまはご承知の忙しさだが、晩年にでもなったら、探偵学全般を一巻にまとめることに生涯をささげるよ。(P.362)
  • 第二の汚点(なし)

シャーロック・ホームズの思い出

  • 白銀号事件(なし)
  • 黄色い顔(なし)
  • 株式仲買店員(なし)
  • グロリア・スコット号
    • それがいま、ちゃんと自分のひじ掛けいすに坐って、ひざのうえに記録をひろげているのである。(P.135)
  • マスグレーヴ家の儀式
    • 彼は記録、ことに自分の関係した事件の記録の失われることをひどく恐れた。そのくせ自分でその整理に本気で骨折るのは、一年にたった一度か二度にすぎない。(P.174)
    • 備忘録へ書きぬきをはりこむ仕事もすんだのなら、(P.175)
    • べつに無理な注文でもないので、ホームズも渋い顔はしながらも、寝室へはいっていったが、やがてそこから大きなブリキの箱をもちだしてきた。そして、そいつを部屋のまん中にすえ、そのまえに腰掛を引きよせ、腰をおろしてふたをとった。みると、なかには赤いテープでべつべつにからげた書類が三分の一ほども詰まっている。(P.175)
    • 「そうさ。ここにあるのはみんな初期の、君が僕のことを書いて偉くしてくれるまえの時代のものなんだ」。ホームズはひと束ひと束、人形をでも扱うようにやさしくとり出しながら、(P.176)
  • 背の曲った男(なし)
  • 入院患者(なし)
  • ギリシャ語通訳(なし)
  • 海軍条約文書事件
    • 「それはきわめて大切なことです」とホームズは自分のカフスのうえに何か書きとめた。(P.325)
  • 最後の事件(なし)

シャーロック・ホームズの事件簿

  • 高名な依頼人
    • ホームズはメモ帳に控えると、それをひざの上にひろげたまま、まだ微笑しながらいった。(P.17)
  • 白面の兵士
    • 手帳をみると、私が大柄で姿勢がよく、日にやけた元気そうなイギリス人ジェームズ・M・ドッド氏の来訪をうけたのは、1903年1月、ボーア戦争の終結直後のこととなっている。(P.60)
    • というわけで、日記を繰ってみると、私がジェームズ・M・ドッド氏とつれだってべドフォードシャーへやっと出かけられたのは次週のはじめだった。(P.81)
  • マザリンの宝石
    • ホームズはチェスの名手が最上の手を考えでもするように、じっと考えながら相手を見つめていたが、机の引出しをあけて小さくて厚ぼったい手帳をとりだした。
      「この中に何が収めてあると思います?」
      「そんなこと知るものか!」
      「あなたが収めてあるのです」
      「私が?」
      「そうです。あなたがです。この中にあなたのよからぬ行動がすべて収録してあります」(P.115)
  • 三破風館(なし)
  • サセックスの吸血鬼
    • 私はうしろへ体を伸ばして、ホームズの求める厚い索引簿を棚から取りおろした。彼はそれをひざの上で平衡を保ちながらひろげて、ゆっくりと、なつかしそうな眼つきで、終生かかって蓄積した見聞や知識の中に混じっている古い事件の記録をたどっていった。(P.170)
    • 「まあそうもいえましょう」 ホームズは手帳にノートした。(P.182)
    • ここでまたホームズは何やらノートして、しばらくは何もかも忘れて考えこんでいた。(P.184)
    • 「大丈夫、お会いになりますよ」といってホームズは紙きれに何やら二、三行走りがきした。(P.197)
  • 三人ガリデブ(なし)
  • ソア橋(なし)
  • 這う男
    • だがいざ書くとなると、中途にある種の障害が横たわっていて、この奇妙な事件の真相は、ホームズの扱った多くの事件の記録とともに、ブリキ箱の底ふかく葬られていたのである。(P.289)
    • 僕は探偵の仕事における犬の用途について小論文を書いてやろうかと、まじめに考えているよ。(P.291)
  • ライオンのたてがみ(なし)
  • 覆面の下宿人
    • 本棚には年鑑がずらりと並んでいるし、書類箱の中には記録がぎっしり詰まっていて、犯罪事件ばかりでなく、ヴィクトリア朝後期の社交界ならびに官界のスキャンダルが、研究者のため完全に収録されているのである。(P.356)
    • シャーロック・ホームズは猛然として、部屋のすみに積みあげてある備忘録の中を漁りはじめた。しばらくはしきりにページをめくる音をさせていたが、やがて探すものが見あたったか、満足そうな声をもらして、そのまま仏像か何かのように床の上へしりを落として坐りこみ、興奮した様子で読みはじめた。
      「当時あの事件には悩まされたものだよ、ワトスン君。その証拠には、この本の欄外に、ほらこんなに書きこみをしている。」(P.372)

緋色の研究

  • 第一部 元陸軍軍医 医学博士ジョン・H・ワトスンの回想録再刻
    • ホームズは巡査の住所を控えて、
      「さあ、ワトスン君、訪ねていってみよう」。(P.59)
    • 葉巻の灰については、専門的に研究したこともあるし、じっさい僕はそれについて論文まで書いたくらいだ。(P.63)
  • 第二部 聖徒たちの国(なし)

四つの署名

  • 四つの署名
    • あの男はいま、僕のちょっとした著作をフランス語に訳しているがね」
      「君の著作だって」
      「うん、まだ知らなかったのかい?」ホームズは笑って、「実は僕の畑のものを若干いたずらしてみたんだがね。たとえばこの『各種煙草の灰の鑑別について』なんかそのひとつだよ。」(P.10)
    • ここにある小論文は、足跡の詮索を論じて、その保存に石膏を応用する問題に言及したものだ。それからこっちにあるのは少し変わったやつで、職業が手の形におよぼす影響を論じ、スレート職人、水夫、コルク切り工、植字工、織物工、ダイヤモンド研磨工の手の形を研究したものだ。(P.11)
    • 「それはいつのことですか?」ホームズは手帳をひろげて鉛筆をかまえた。(P.21)
    • ひとりホームズのみは、膝のうえに手帳をひろげて、ポケットランタンの光をたよりに、何かしきりに心おぼえを書きつけている。(P.32)

バスカヴィル家の犬

  • バスカヴィル家の犬
    • この種の書類の年代の鑑定が、十年か二十年以上もちがうようでは、玄人とはいえません。あるいはお目にとまったかもしれませんが、この問題に関してはちょっとした論文を発表したこともあるのです。あなたがお持ちのものを、私は一七三〇年と踏んでいます。(P.18)
    • シャーロック・ホームズはそれを手帳に控えた。(P.89)
    • 索引つきの書類つづりの中のBの部に、ちょっとした覚え書きもあるはずだ。(P.297)

恐怖の谷

  • 第1部 バールストンの悲劇(なし)
  • 第2部 スコウラーズ(なし)

シャーロック・ホームズ最後の挨拶

  • ウィステリア荘
    • べインズ警部の帰ってくるまえに、ホームズへ電報の返事がきた。彼は読み終わると手帳のあいだへ納めようとしたが、ふと、見たそうな私の眼つきに気が付いて、笑いながら私のほうへひょいと投げてよこした。(P.31)
    • ホームズは微笑しながら、手帳の記入事項を見た。(P.66)
    • 「だからあの男は儀式の伝統を忠実に守ったわけだよ。怪奇だね」とホームズは静かに手帳をとじて「だからいつかもいったように、怪奇と恐怖とは、一歩の差にすぎないのだよ」。(P.67)
  • ボール箱
    • ホームズは名刺の裏に何やら走りがきして、それをレストレードに投げた。(P.90)
    • 去年の『人類学会雑誌』をみてくれれば、この問題について僕の書いた短い論文が二つばかり出ているはずだ。(P.93)
  • 赤い輪
    • こういってシャーロック・ホームズは、最近の資料を整理して索引をつくっていた大型のスクラップ・ブックのほうへ向きなおった。(P.111)
    • といって彼は、ロンドン中のいろんな新聞から切りぬいて日付けの順にはりこんだ大きなファイルをとりおろして、ページを繰った。(P.121)
  • ブルース・パティントン設計書
    • その忘るべからざる日にも、それから以後の時間を彼はまえからやっていたラッススの多声聖歌曲に関する小論文の完成に没頭していた。(P.198)
    • ホームズについては、ラッススの多声聖歌曲の研究を再開し、やがてこれは印刷に付されて私的に頒布されたが、専門家はこの問題に関する決定的な仕事だといっている。(P.206)
  • 瀕死の探偵
    • 仮病というやつ、小論文にまとめてみたいと思うことがよくあるが、半クラウンだとか牡蠣だとか、かけ離れたことをでたらめにしゃべってみせると、面白いほどに精神錯乱者の効果がだせるものだよ。(P.236)
  • フランシス・カーファクス姫の失踪
    • ホームズはひじ掛椅子に背をもたせかけて、ポケットから手帳を出してみながら、(略)(P.240)
    • ホームズはなおも手帳を見やって、(略)(P.241)
  • 悪魔の足
    • まあもっと正確な資料が手に入るまで、しばらくこの事件から遠ざかって、けさは石器時代人の研究でもしようよ。(P.298)
  • 最後の挨拶
    • 「その通りさ。暇にまかせて書いた晩年の最大著作がこれだ」といってホームズはテーブルにあった本をとりあげ、その表題を読み上げた。「”実用養蜂便覧、付・女王蜂の分封に関する諸観察”独力でやったのだ」(P.352)

シャーロック・ホームズの叡智

  • 技師の親指
    • ややあってホームズが分厚い切抜帳を一冊棚からとりおろした。(P.37)
  • 緑柱石の宝冠(なし)
  • ライゲートの大地主(なし)
  • ノーウッドの建築士
    • ここに手帳を破って、だいたいの平面図を画いてきた。(P.153)
  • 三人の学生
    • 切抜帳や化学薬品や、よそゆきでない乱雑さの中にいないと、心が落ちつかぬらしい。(P.178)
    • ホームズはその細部にひどく心をひかれ、手帳をだしてむりに写生をはじめたが、鉛筆の芯が折れたからといって学生の鉛筆を借りて使い、はては学生からナイフを借りうけて自分の鉛筆をけずった。(P.195)
  • スリー・クォーターの失踪
    • 演説がすむとホームズは片手をのばして、備忘録のSの部をとりおろし、いろんな事項を書きこんである宝庫をさがしてみたが、ついに得るところはなかった。(P.214)
  • ショスコム荘(なし)
  • 隠居絵具屋
    • 土地の牧師という責任ある人物から来たものだし……はて、僕の牧師録はどこへいったかな? ああここにあった。(P.302)
    • これを記録簿に綴じこんでおきたまえ。いつかは真相を語るときもあるだろうよ。(P.319)
 

ホームズの手帳・メモ・ノート・論文術まとめ

ホームズの「手帳・メモ・ノート・論文」展開をピックアップしてみると、いくつかのパターンがることが分かる。

 
  1. とにかく手帳には、さまざまな展開をメモしているようだ。展開は書いていなくても、たびたび手帳に書いているのと参照しているシーンが出てくる。
  2. 手帳に書きこむシーンはよく出てくるが、新聞の切り抜きやメモでは「新聞の名前、日付を控えておく」という注意を述べているシーンも出てくる。また電報がくれば、それを手帳にはさみ込んだりもしているようだ。
  3. 百科事典、伝記など各種の便覧、各種年鑑、牧師録など、何が起こっても資料を閲覧できるようにしている。また自分で制作した資料集もいろいろあるようだ。
  4. 備忘録のような切抜帳は、資料として熱心に作っている。もちろん、欄外への書き込みもたくさんあるようだ。面倒な場合は、テーマごとに分けた一つの箱の中へまとめて入れているらしい。
  5. 論文にいたっては、捜査の役に立つ各種テーマはもちろんだが、楽曲や蜜蜂なんかの趣味的な分野もいくつかある。
  6. 地図にピンを立てながら、自分の推理を語っているシーンがある。このような展開はむかしの海軍なんかでの図上演習を思わせるが、理解力を高めるには、とてもいい方法だと思う。これは参考にしたい。
 

こうしてみると、例えば立花隆の「知のソフトウェア」に書いてある内容と共通点がある。資料集めからそれが掲載されていた書名、日付やスクラップ法などなどホームズ時代の手法から、立花隆の時代ともなれば、PCやネットの活用、各種専門図書館や大宅壮一文庫のような施設の活用方法など、現代的手法へと変化しているわけだ。

 

さらにはホームズがパイプをやりながらひと晩ほども考えていること、同じように立花隆もアイデアが浮かぶまでそれなりの時間が必要だといっていることなど、似たような展開が出てくるではないか。古典ではあっても、その手段が現代スタイルになるだけであり、おおよそ似たような展開ではないだろうか……。

 

コメント

コメントがあれば、どうぞ!


  • ホームズがやっていたことは実に参考になる。PCやネットの活用など、時代の状況にあわせた方法に移し替えて考えればいいわけだ。 -- しのご 2017-07-25 (火) 11:00:12

 

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Last-modified: 2017-07-25 (火) 11:00:12 (476d)